2024-01-01から1年間の記事一覧
『悪の華』の冒頭には、テオフィル・ゴーティエへの献辞が記(しる)されています。 ですがこの詩集は、『悪の華』を訳したものとは到底言えません。 オリジナルの内容・文章・文脈・単語など大胆に変更しています。また、 ボードレールの真骨頂との言える韻へ…
乞食に虱や蚤がわくように、 たくらみと、欲と、金への執着と、そして妬みが、 オレの身体に染み込んでいるんだ。お前らもそうだろ? 舌に言い訳を重ねて、その場しのぎで生きているだけだろ? 会心しろなんて、ありがてぇ言葉は、屁のつっぱりにもなんねぇ…
神様の、ありがたい思し召しで、 うっとうしいこの世に、詩人が生まれ落ちた。 ママは、びっくり仰天し、 お情け深い神様を、中指立てて罵った。 「こんな情けないカタワを育てるぐらいなら マムシでも産めばよかった。 ああ、あの夜が呪わしい。 オマンコに…
暇つぶしに、船乗りさんは、 アホウ鳥を、生け捕りして、弄ぶ。 アホウ鳥は、調子にコイて船尾にホイホイとついて来くる。そして、 難なく、捕まえられる。だからアホウ鳥。 アホウだが、※1なにしろデカい。一見すると、 空の王者のようだ。ところがどっこ…
海から池から谷から、飛び上がり、 森を越え、山を越え、もっともっと高く、 お日様も越え、ダークエネルギーの膨張に乗って、 まさかまさかの、宇宙の果て。 気持は軽やか、ラリって、らられるろ、 背泳ぎ、犬掻き、バタフライ、宇宙の果てで、わふフンわり…
奇跡は自然に隠れている。木々は生きた柱だ。 林を歩けば、 オレを見守ってくれる。 耳を澄ませば、得体のしれないものがつぶやきかけて来る。 その声は絶え間なく聞こえる。 遠くどこからともなく、 香りと、色と、声が一つとなって戯れ、 たぶん、暗い奥深…
素っ裸で生きていた昔の事を想像するのも、嫌いじゃねえ。 お日様が、人を黄金色のツバで染めていた昔の事を。 その頃の人は敏捷で、 ウソなんかつかねぇで、くったくなく、遊んで暮らしていた。 ニコニコ顔のお天道様は、人の背骨を撫ぜ撫ぜ。 こうして人は…
ルーベンスの絵は、忘れん坊の河、怠け者の庭ってところかな。 性欲の宿命に、いさぎよく従う肉体ってところだ。 空気に空気が、海に海が溶け込んで、 乾坤までもが、アレに精出している。 レオナルド・ダ・ヴィンチの絵は、湿っぽい。 あどけない天使が、 …
詩の女神さんよぉ、あんた、今朝はいかれているぜ。 目に隈ができて、そこに悪夢がまだ居座っているようだ。 不機嫌な顔には、 狂気と恐怖が、入れ代わり立ち代わり表れているぜ。 緑色の大悪魔と、ピンク色の小悪魔が、 あんたを、からかったか? 悪夢がい…
詩の女神さん、あんたはとびっきりのお嬢だ! あんた、一月の雪が降る、 北風の強い、暗い夜に、 冷え切った紫色の両足を暖める薪を、一人で集める事はできるか? そうか、では次だ。大理石のように固まったその肩を、 窓から差し込む光が、解(ほぐ)してくれ…
むかし、僧院の壁に、 神様の『粋』を絵にして、並べたそうだ。 そのお陰で、信仰心は温まり、 小難しい寺の冷たさも、なんとはなしに和らいでいたと聞く。 キリストの教えが、花と栄えた頃、 今では名前すら知られていねぇ、偉い坊さんが、 墓場を仕事場に…
オレの若(わけ)え頃は、ひでえ嵐に似ている。 そりゃあ時には、一筋の光が射したこともあったさ。 しかし、ほとんどスゲエ雷雨の日々だった。 実りの季節でさえ、 鋤と鍬で、洪水の去った、 墓場のような地面を、 耕し直すといった有様だった。 そのせいか、…
こんな重いもんを持ち上げるには、 相当、根性がいるだろうなぁ。 どんなに頑張っても、 オレ、やり遂げる自信ねぇなぁ。 偉業をなし遂げたご立派な人が眠る、そんな墓からは遠く離れて、 平々凡々の輩の眠る墓にまっしぐらで、 オレは、太鼓をたたきながら…
オレ様は前世、海辺の景勝地で、豪壮な建物の柱廊の中に暮らしてたんだ。 見上げる柱は、太陽の光を反射して、キラキラ輝いて、 日が落ちたら、 内部は洞窟のように、真っ暗でひんやりしていた。 うねる波は、空の揺り籠のようで、 怒声とも、囁きともとれる…
きのう、占いを生業にしている目つきの悪いジプシーが、 ガキを背負って、旅立った。 母ちゃんは、腹を空かしたガキに、 垂れ下がったオッパイをあてがって、荷馬車に揺れていた。 危なっかしい武器を背負った父ちゃんは、 家族の馬車の脇を守り、 虚ろな目…
オレら人間は、海が好きだ! 海はオレらの鏡みてぇなもんだから、オレらの魂が、 波にもまれているのが、キラキラ反復反射して、他人ごとのように見える。 オレらもまた、海のように塩っ辛いもんなぁ。 オレは、喜んで海に飛び込む。 海中の碧を見て、海水を…
三途の川に差し掛かったドン・ジョヴァンニは、 渡し守のカロンに船賃を払うと、 禁欲主義の※1 アンティステネスを気取った乞食が出て来て、 『ギィーゴ、ギィ―ゴ』と二本の櫂を漕ぎだした。 このドン・ジョヴァンニが乗った船を、 垂れ下がった胸を露わに…
『神学』が繁盛していた頃、 つまり、何事も『神様のお陰で、有難い事で……』で誤魔化しが効いていた頃。 お偉い学者様の中でも、とびきりの大先生がいた。 不信仰の者を、十字架の前にひれ伏させ、 その暗闇の不信心を、法灯の輝きで、涙させた大先生。 天使…
わたし綺麗かしら。わたしの名前は『美』。この世のものとは思われないでしょう? この胸に触れて、傷を負った人はたくさんいるわ。気を付けなさい。 無機質の愛ってどうお思いになって? ええ、言葉のない愛よ。穢れようのない愛よ。 わたしは、そんな愛を…
大量生産の粗悪品。 網タイツの脚。煙草を挟んだ指。 グラビアを飾る裸の女。 ひねくれ者のオレは、そんなガラクタじゃあ満足しねぇって。 薄命な美人が、もだえ苦しむ病室の景色は、 俗なイラストレーターに任せたほうがいい。 血の気の失せた薔薇園に、 理…
大昔のように、自然が旺盛な性欲にあふれ、 毎日毎日、怪物を孕んでいた頃だったら、 オレは、猫のようにゴロゴロ喉を鳴らして、 デブ女の足元で暮らしただろうなぁ……。 デブ女が大股開きにして、 尽きない性欲を持て余し、ビラビラの花弁が、じっとり濡れて…
見てみろよ、典雅なフィレンツェ趣味を気取った、この女人像を。 肉がうねるその像の中で、 『お上品』と『あばずれ』の姉妹が、罵り慰め合っているぜ。 それは、神々しいほどに強く、レイプしたくなるほどに、か弱い。 ありえねぇよ、こんな女人像。 これは…
『美』よ、お前さん、天から堕ちて来たのかい。それとも地底から這い上がって来たのかい。どっちだ? お前さんの目つきは、神様のモンかい? それとも悪魔の所有物なのかい? うっとりしながら、恩恵と犯罪を、ためらいも区別もしないでオレらに突きつける。…
蒸し暑い秋の夕暮れ、目を閉じ、 アンタの汗ばんだ胸の、スエた臭いを吸い込むと、 夕日に灼け焦げた、静かな砂浜が、 オレの視界にひろがってくる。 倦怠の島では、 奇妙な樹々と、旨い果実が、野生に任せて生えている。 男たちは、しなやかで逞しく、 女た…
うねうねと、うなじに垂れて重い縦ロールの髪。 その巻き毛にこもった体臭に、オレはうっとりしてしまう。 今夜、この薄暗いベッドルームに、 アンタの髪に絡まった昔の思い出を、ばらまこうと、 その髪を、ハンカチのように宙に振ってみたい。 倦んだアジア…
貴女のことが好きです。貴女は夜空に似ています。 背が高くて、無口で。そんな貴女を思うと、僕はいてもたってもいられなくなってしまいます。 いやぁ、貴女はきれいです。思いはつのります。貴女が僕から逃げれば逃げるほど、諦めきれなくなって しまいます…
この世の男ゼーンブを、自分のベッドに誘い込む積りだったのだろう。 この淫乱女! 欲求不満が、お前を残酷に追い立てていた頃もあった……。 変態セックスを楽しむためには、お前は自分の歯を尖らせようと、 毎日ひとりずつの心臓を餌食にしなければ、とても…
ムスクとタバコの匂いのしみこんだ、 夜のような黒い肌を持つ、ニグロの魔法使いよ。 草原のファウスト博士が作った、 真夜中の申し子よ、黒檀の脇腹を持つ魔女よ。 ※1コンスタンスや※2ニュイのワインより、麻薬より、 オレはお前の口づけの方が好きだ。 …
ビーズとスパンコールを縫い付けた服で、 ケツをフリフリ、踊るように歩くお前。 その姿は、祈祷師が操る棒に合わせて、 首を振る蛇に似ている。 殺伐とした砂漠の砂や青空が、 あるいは、海の網目模様のうねりが、 人間の苦悩に興味がないように、 お前はい…
やべぇ、やべぇ、つい見惚れちまった。ふて寝するアンタによぉ。 その肌は、サテンのようにぬめっていて、 時にそれが、ブルッと震え、 ジトッとテリを滲ませて光り、本当、たまんねぇんだよ。 髪は奥深いところで、 臭いもきつく、 青色と茶色の波を打ち返…