うねうねと、うなじに垂れて重い縦ロールの髪。
その巻き毛にこもった体臭に、オレはうっとりしてしまう。
今夜、この薄暗いベッドルームに、
アンタの髪に絡まった昔の思い出を、ばらまこうと、
その髪を、ハンカチのように宙に振ってみたい。
倦んだアジアか、燃えるアフリカか、
いや違う、もっと遠い、滅びたはずの国が、
アンタの髪の中でまだ息づいている。アンタの髪は臭気に蒸れる森だ。
人が音楽に酔いしれるように、
オレは、アンタの髪の臭いに漂うのだ。
行ってみようじゃあないか、その遠い国へ。人も樹々も精気にあふれていながら、
灼熱の気候に、精根を抜かれたようになっている国へ、
アンタの髪で、オレを巻き包んで運んでくれ。
アンタの髪は黒檀の海だ。そこには、帆柱、帆、旗、そして船乗り、
そんな豪勢な夢を、隠し匿っているんだ。
浮かれ気分の港なら、こんなオレでも、
臭いを、光を、音を、吐くまで貪れるだろう。
その港には、何艘もの船が、きらめきと波紋の上に浮かんでいて、
大きな腕をひろげ、
焦げあがった炎天の栄光を抱きしめようとしている。
オレののぼせあがった頭を、
アンタの海原のような髪に浸せば、
ゆらゆら、だらしなく揺れながら、
そこに、オレは、
贅沢な退屈と、臭いに包まれた安らぎを見出すだろう。
青い髪は、暗闇に張り巡らされた天幕だ。
広がった晴天を思い出させてくれる。
その産毛が生えそろった項には、
ココナッツ油と、麝香と、コールタールが混じり合った臭いがしていて、
オレを酔わせてくれる。
だらだら時間をかけて、アンタの縦ロールの髪に、
オレの望みを、アンタが聞き入れてくれるように祈りながら、
ルビーと真珠とサファイヤを巻き付けてやろう。
アンタは、オレが夢見て眠るオアシスなのだから。
オレの思い出の酒を、のんびり味わうための、グラスなのだから。