悪(ワル)の華

ボードレールは、人間を『退屈』に住む『悪』だと思っていたようです。『悪』を詠えば、人間の本質に迫れました。 『悪』はまた、衝動的で扇動的で曖昧でした。 衝動的で扇動的で曖昧なものは、おもしろおかしく好き勝手に扱えました。 『悪』は、『滑稽』にも『美』にも『神』にさえなれました。 こうして人間は、『滑稽』や『美』や『神』に変えられました。 ボードレールのやったことは、それだけのことです。では、ボードレールの言葉遊びに浸りましょう。文中、極めて不道徳で不適切な単語や表現が使用されています。予めご了承ください。

23 髪

うねうねと、うなじに垂れて重い縦ロールの髪。

その巻き毛にこもった体臭に、オレはうっとりしてしまう。

今夜、この薄暗いベッドルームに、

アンタの髪に絡まった昔の思い出を、ばらまこうと、

その髪を、ハンカチのように宙に振ってみたい。

 

倦んだアジアか、燃えるアフリカか、

いや違う、もっと遠い、滅びたはずの国が、

アンタの髪の中でまだ息づいている。アンタの髪は臭気に蒸れる森だ。

人が音楽に酔いしれるように、

オレは、アンタの髪の臭いに漂うのだ。

 

行ってみようじゃあないか、その遠い国へ。人も樹々も精気にあふれていながら、

灼熱の気候に、精根を抜かれたようになっている国へ、

アンタの髪で、オレを巻き包んで運んでくれ。

アンタの髪は黒檀の海だ。そこには、帆柱、帆、旗、そして船乗り、

そんな豪勢な夢を、隠し匿っているんだ。

 

浮かれ気分の港なら、こんなオレでも、

臭いを、光を、音を、吐くまで貪れるだろう。

その港には、何艘もの船が、きらめきと波紋の上に浮かんでいて、

大きな腕をひろげ、

焦げあがった炎天の栄光を抱きしめようとしている。

 

オレののぼせあがった頭を、

アンタの海原のような髪に浸せば、

ゆらゆら、だらしなく揺れながら、

そこに、オレは、

贅沢な退屈と、臭いに包まれた安らぎを見出すだろう。

 

青い髪は、暗闇に張り巡らされた天幕だ。

広がった晴天を思い出させてくれる。

その産毛が生えそろった項には、

ココナッツ油と、麝香と、コールタールが混じり合った臭いがしていて、

オレを酔わせてくれる。

 

だらだら時間をかけて、アンタの縦ロールの髪に、

オレの望みを、アンタが聞き入れてくれるように祈りながら、

ルビーと真珠とサファイヤを巻き付けてやろう。

アンタは、オレが夢見て眠るオアシスなのだから。

オレの思い出の酒を、のんびり味わうための、グラスなのだから。