悪(ワル)の華

ボードレールは、人間を『退屈』に住む『悪』だと思っていたようです。『悪』を詠えば、人間の本質に迫れました。 『悪』はまた、衝動的で扇動的で曖昧でした。 衝動的で扇動的で曖昧なものは、おもしろおかしく好き勝手に扱えました。 『悪』は、『滑稽』にも『美』にも『神』にさえなれました。 こうして人間は、『滑稽』や『美』や『神』に変えられました。 ボードレールのやったことは、それだけのことです。では、ボードレールの言葉遊びに浸りましょう。文中、極めて不道徳で不適切な単語や表現が使用されています。予めご了承ください。

22 異国の香り

蒸し暑い秋の夕暮れ、目を閉じ、

アンタの汗ばんだ胸の、スエた臭いを吸い込むと、

夕日に灼け焦げた、静かな砂浜が、

オレの視界にひろがってくる。

 

倦怠の島では、

奇妙な樹々と、旨い果実が、野生に任せて生えている。

男たちは、しなやかで逞しく、

女たちの目は、驚くほど純だ。

 

アンタの香りに導かれて、魅惑の島に近づけば、

その波止場に、海原に揉まれて疲れ切った帆の群れが、

目いっぱいに迫って来る。

 

そして、噎せ返るタマリンドの香りが、

空虚を流れ、オレの鼻腔を膨らませ、

オレの中で、マドロスの歌と混じり合う。