『美』よ、お前さん、天から堕ちて来たのかい。それとも地底から這い上がって来たのかい。どっちだ?
お前さんの目つきは、神様のモンかい? それとも悪魔の所有物なのかい?
うっとりしながら、恩恵と犯罪を、ためらいも区別もしないでオレらに突きつける。
だから、『美』よ、お前さんは、『酒』に例えられるんだ。
『美』よ、お前さんの目には、日没と日の出がごっちゃになって見えているはずだ。
お前さんの臭いには、夕暮れの嵐の気配がある。
お前さんのキスは麻薬で、となるとその口は注射器だ。
強面(こわおもて)の英雄を尻ごませ、あどけないガキに銃を握らせる。
『美』よ、お前さんは暗闇から湧き出て来たのか? 星空から降って来たのか?
『運命』だって、お前さんになついて、その裾にまとわりついているじゃあねぇか。
気まぐれに、喜びと破滅をばらまくお前さんは、
すべてを支配しておきながら、何の責任も取らない。いいご身分だぜ、まったくよぉ。
『美』よ、お前さんはあざ笑いながら、死体を踏みにじりる。
お前さんを飾る宝石の中でも『恐怖』は、相当イカしていると思う。
『殺人』が、お前さんの宝石に囲まれて、
コウマンチキなお前さんの腹の上で、色目を使いながらダンスをかましている。
『美』よ、お前さんにかどわかされたカゲロウが、ロウソクに飛び込むように、
自分を燃やしながら、こう口走る。「この炎、大好き!」
恋した男が、息を上げながら女に乗っかる姿は、
くたばる寸前の病人が、自分の墓を愛撫するようだ。
『美』! ベルベットの眼差しを持つ妖精。
そのリズム、その臭い、その光。オレのただ一人の女王!
お前さんが、世界の醜さを、そして一瞬一瞬の苦痛を、少しでも減らしてくれるなら、
『美』よ、お前さんが神様だろうが悪魔だろうが、ましてや天使か人魚か、そんなことどっちでもいいんだ!