悪(ワル)の華

ボードレールは、人間を『退屈』に住む『悪』だと思っていたようです。『悪』を詠えば、人間の本質に迫れました。 『悪』はまた、衝動的で扇動的で曖昧でした。 衝動的で扇動的で曖昧なものは、おもしろおかしく好き勝手に扱えました。 『悪』は、『滑稽』にも『美』にも『神』にさえなれました。 こうして人間は、『滑稽』や『美』や『神』に変えられました。 ボードレールのやったことは、それだけのことです。では、ボードレールの言葉遊びに浸りましょう。文中、極めて不道徳で不適切な単語や表現が使用されています。予めご了承ください。

88 赤毛の乞食娘

赤毛の、白い肌の乞食娘よ! 

お前のドレスのほころびから見え隠れしているのは、

貧しさではない。お前は気付いていないだろうが、

そこで『美』が息を殺して隠れている。

 

まかりなりにも、詩人のオイラには、

ソバカスだらけで、ひ弱で、

だが若い、お前の肉体が、

ある意味、いや、それこそが『美』と理解できるのだ。

 

おとぎ話の女王様が、

ビロードの靴を履くより、

お前が木靴を履く様は、

優雅だ。

 

その丈の短いボロ服が、

もし踵まで垂れ下がっていたら、

豪奢な服の宮廷婦人も、

恥じ入るだろう。

 

穴の開いた靴下のゴムに、

キラリと金の短刀を仕込んで、

放蕩者のスケベな目を、

驚かせるんだ!

 

ボタンをはだけ、

乳房をあらわにして、

謹厳居士を、

堕落させろ!

 

服を脱がそうとする指を、

「無礼者!」と、

威喝して、

払いのけろ!

 

輝きを放つ真珠や、

ペロー風のソネットを、

お前の虜になった男どもが、

プレゼントするだろう。

売れない詩人は奴隷となるしかすべがなく、

処女作を献呈し、

階(きざはし)の下から、

その穴開き靴下を拝むのだ。

 

イチかバチかの運試しで、

お前を誘惑してみようと、

多くの廷臣、多くの貴族、

多くの詩人が、

お前のみすぼらしい小屋の周りをうろついているぞ。

 

お前はベッドの上で、

百合の口づけを繰り返す。

ヴァロア家の血統の興廃が、

まるで、お前の気分次第のように。

 

———それなのにお前は、

立ち飲み屋が軒を並べる場末を、

残飯求めて、

さまよっている。

 

ショーウインドウの29スーの、

模造宝石を、

上目遣いで睨んでいるが、

オレはそれさえ買ってやれない。

 

さぁ行こうか!

真珠もダイヤも飾らず、香水もつけず、

その痩せっぽっちの身体ひとつで!

オレだけのヴィーナスよ!