見てみろよ、典雅なフィレンツェ趣味を気取った、この女人像を。
肉がうねるその像の中で、
『お上品』と『あばずれ』の姉妹が、罵り慰め合っているぜ。
それは、神々しいほどに強く、レイプしたくなるほどに、か弱い。
ありえねぇよ、こんな女人像。
これは、豪華なベッドの天蓋飾りか、
大僧正や王侯の慰みモノとしか、言いようがねぇや。
———おい、もっと目玉かっぴろげて見てみろ。あの思わせぶりの薄ら笑いを、
自惚れて、のぼせ上がっている、あのバカっぷりを、
意味ありげに、もったいぶって、人をあざけっている、あの流し目を、
ヴェールで隠した、すまし顔を。
そして表情のひとつひとつの線が、勝ち誇って、こう語りかけてくる。
「『肉欲』があたしを呼び、『純愛』が王冠をあたしに授けてくれる」と。
こんな面倒くせぇえ女人像に、
あの見た目の可愛らしさが、カマトトぶるのに、どれだけ効果的か分かるか。
さぁ、寄った寄った。この『美』の近くをひと回りしてみようぜ。
ちょっと待った。首から上を見てみろ。霊験あらたか、ご利益の光明にあふれたこの女人像は、
二つの顔を持つ化け物になっている。
もう少しで騙されるところだった。
いや違うな。取り繕ったこの顔は、ただの仮面だ。
巧妙なカモフラージュだ。
ほらよく見ろ、これが本当の顔だ。
嘘の顔に隠れている顔。
目を吊り上げ、のけぞっている顔。
まったくご立派な女人像だ。その涙が作る、
バカでけぇ河が、オレの隙間に流れ込んで来る。
女人像の嘘は、オレを気分良くしてくれる。
オレは、女人像の涙で、渇きを癒す。
———しかし、そもそもこの女人像はなぜ泣くのだ?
人を、その足元に跪かせる完璧な『美』を持ち合わせる、結構なご身分なのに、なぜだ?
どんな苦痛が、あの脇腹に噛みついたと言うのだ?
———オマエ、バカかぁ? この女人像が泣く訳が、まだ分からないのか?
この女人像は、生きて来たから泣くんだよ。いや今も、今現在も、生き続けているから泣いているんだ。
そして、殊更大袈裟に、膝を震わせて泣く理由は、
明日も生きなければならないからだ。
いや明日だけではない。明後日も、いつまでもいつまでも、オレたちと同じようにいつまでも、生き続けなければならない。だから泣いているんだ。
※1フランスの彫刻家。この詩は、エルネスト・クリストフの作品からインスピレーションを受けた。