悪(ワル)の華

ボードレールは、人間を『退屈』に住む『悪』だと思っていたようです。『悪』を詠えば、人間の本質に迫れました。 『悪』はまた、衝動的で扇動的で曖昧でした。 衝動的で扇動的で曖昧なものは、おもしろおかしく好き勝手に扱えました。 『悪』は、『滑稽』にも『美』にも『神』にさえなれました。 こうして人間は、『滑稽』や『美』や『神』に変えられました。 ボードレールのやったことは、それだけのことです。では、ボードレールの言葉遊びに浸りましょう。文中、極めて不道徳で不適切な単語や表現が使用されています。予めご了承ください。

53 旅の誘い

      なあ、かわいい妹。

      想像してみろよ、

   遠い国に一緒に逃げて、この兄ちゃんと暮らす毎日を!

      気が向いたら、ヤクかましてアレをヤッて、

      ヤリ飽きたら……、いっそ死んじまおう。

   あの世は、お前と相性がいいはずだ。

      そこでは、くもり空に、

      湿った太陽が浮かんでいる。

   それは涙にゆらぐお前の眼差し、そのもの。

      禁忌の誘惑、

      誹謗の目、

   ただ、それがオレを虜にする。

 

   あの世は、『秩序』と『美』と、

   『栄光』と、『静寂』と、『快楽』だけだ。

      家具は、

      年月の手ズレに磨かれて輝き、

   オレたちの寝室を飾るだろう。

      珍しい花々の、

      その香りが、

   海の匂いに混ざって、

      複雑な絵が描かれた天井や、

      澄み渡った鏡が、

   専制君主の贅沢な日々を、

      何もかも、

      死の国の言葉で、

   ふたりにそっと囁きかけるだろう。

 

   あの世は、『秩序』と『美』と、

   『栄光』と、『静寂』と、『快楽』だけだ。

   見てみろよ、運河の上に、

      宿命の放浪癖を捨てきれず、

   何艘もの船が眠ってらあ。

      お前のどんなわがままも、

      かなえるために、

   世界の果てからやって来た船だ。

      沈む夕日が、

      野を染めている。

   運河も、町も、

      赤色と金色に燃えている。

   世界は眠りにつこうとしている。

      暖かい光の中に。

あの世は、『秩序』と『美』と、

   『栄光』と、『静寂』と、『快楽』だけだ。