悪(ワル)の華

ボードレールは、人間を『退屈』に住む『悪』だと思っていたようです。『悪』を詠えば、人間の本質に迫れました。 『悪』はまた、衝動的で扇動的で曖昧でした。 衝動的で扇動的で曖昧なものは、おもしろおかしく好き勝手に扱えました。 『悪』は、『滑稽』にも『美』にも『神』にさえなれました。 こうして人間は、『滑稽』や『美』や『神』に変えられました。 ボードレールのやったことは、それだけのことです。では、ボードレールの言葉遊びに浸りましょう。文中、極めて不道徳で不適切な単語や表現が使用されています。予めご了承ください。

54  後悔

死体を舐める蛆虫のように、樫の木を齧る青虫のように、

オレを食い荒らす、

浅い呼吸で、のたうち這いずり回っている、

長い年月を生き延びた、老いぼれた『後悔』を、

オレは、〆殺すことが出来るだろうか?

 

男を破滅させる、貪欲な娼婦か、あるいは、

しつこい蟻のような、

積年の『後悔』を、

どの薬品に、どの酒に、沈めてしまえばいいんだ。

いったい、どの薬だ? どの酒だ?

 

教えてくれ美しい女よ。知っているなら教えてくれ!

苦しみぬいたオレに、

死にぞこないに踏みつけられ、馬の蹄に蹴飛ばされた、

瀕死のオレに、

言ってくれ、知っているなら、言ってくれ。

 

オオカミが嗅ぎつけ、カラスも目を付けている、

この半死のオレは、

傷ついた兵士のオレは! 本当に墓と十字架を、

諦めなければならないのか、それを教えてくれ。

飢えたオオカミが、オレの耳元を嗅いでいる。

 

『安宿』の格子窓に輝いていた『希望』は、

吹き消されて、永遠に死に絶えてしまった!

月もなく、光もなく、道に迷う巡礼者のオレは、

いったいどこに寝ればいいのだ!

『悪魔』が『希望』を吹き消してしまったのだ。

 

美しい女よ、お前は地獄に堕ちるオレを愛せるか?

言ってくれ、許されない罪とは何なんだ?

『後悔』と言う毒矢で、オレの心臓を的にしようとする、

そいつの名前を知っているのか?

美しい女よ、地獄に堕ちるオレを本当に愛せるのか?

 

『後悔』は、その呪われた歯で、

惨めなオレの心臓を齧る。

そしてシロアリのように、

オレの骨をボロボロにする。

『後悔』の呪われた歯は、なにもかも齧り倒すのだ。

 

ときどきオレは、場末の劇場の道具部屋で、

調子はずれの楽団に合わせて、

一匹の妖精が絶望に、

奇跡の灯をともすところを見た。

場末の劇場の道具部屋でのことだ。

 

そしてオレは、薄絹をまとった神が、

悪魔と激闘を演じているとも耳にしたことがある。

しかし、その場面の恍惚を味わったためしはない。

ここの観客はただ、待つことしか出来ないのだ。

いつまでも、いついつまでも、いつか薄絹をまとった存在が現れるのを待つしかないのだ。