悪(ワル)の華

ボードレールは、人間を『退屈』に住む『悪』だと思っていたようです。『悪』を詠えば、人間の本質に迫れました。 『悪』はまた、衝動的で扇動的で曖昧でした。 衝動的で扇動的で曖昧なものは、おもしろおかしく好き勝手に扱えました。 『悪』は、『滑稽』にも『美』にも『神』にさえなれました。 こうして人間は、『滑稽』や『美』や『神』に変えられました。 ボードレールのやったことは、それだけのことです。では、ボードレールの言葉遊びに浸りましょう。文中、極めて不道徳で不適切な単語や表現が使用されています。予めご了承ください。

55 たわごと

アンタは、潮のようにオレに迫り、

引きながら、オレの唇に、

苦い泥の思い出を残していく。

秋空のように取り澄ましているアンタだけに、皮肉だ。

 

———アンタの手がオレの胸に滑り込んでも、もう駄目だ。

アンタがまさぐるそこは、

女の爪と歯でキズだらけだ。

これ以上、オレを求めないでくれ。オレは陰獣に喰い尽くされてしまったのだから。

 

オレの心臓は暴徒に荒らされた宮殿だ。

そこでは泥酔、喧嘩、挙句の果てに殺人まで行われた。

な、なにをするんだ。服を脱ぐのか! はだけた胸から立ち上る臭いに、オレの情欲がまた疼く。

 

アンタはオレの魂を打つ災いだ。鞭はアンタの手に握られているのだ。

祭りの焚き上げのように輝くアンタの眼で、

喰い残された肉片を焦がしつくしてくれ。