悪(ワル)の華

ボードレールは、人間を『退屈』に住む『悪』だと思っていたようです。『悪』を詠えば、人間の本質に迫れました。 『悪』はまた、衝動的で扇動的で曖昧でした。 衝動的で扇動的で曖昧なものは、おもしろおかしく好き勝手に扱えました。 『悪』は、『滑稽』にも『美』にも『神』にさえなれました。 こうして人間は、『滑稽』や『美』や『神』に変えられました。 ボードレールのやったことは、それだけのことです。では、ボードレールの言葉遊びに浸りましょう。文中、極めて不道徳で不適切な単語や表現が使用されています。予めご了承ください。

62 シャブ中女

アガド、どきどきお前(めぇ)ぶっ飛んだだろう、

常識つぅ偽善の街から、

あの海の方へ、

深く濁って臭い情欲の海に。

どうなんだアガド、ぶっ飛んだのか?

 

情欲の海はオレらの苦痛を癒してくれる。

壊れたオルガンの伴奏で、

ただ不器用な声で歌っているだけなのに、

オレらを癒してくれるとは、それはどんな魔物のカラクリだろう。

とにかく情欲の海にオレらは癒されるのだ。

 

連れて行ってくれ、ヤク! 拉致してくれ、ハッパ! 遠くへ、遠くへ!

現実はオレらの涙でできている泥だ。

———本当なのかアガド?

お前の満たされたい身体がこう訴えたのは、

「後悔から、罪から、苦悩から遠く離れた楽園に連れて行って! さらって行って! 

ところでその楽園は、なんて遠いところにあるのかしら!

眩しいカーテンに囲まれて、喜びにあふれたところ、

払う代償にみあうだけの価値を持っているところ、

純粋な欲望に溺れるところ、

楽園は、なんて遠いところにあるのかしら!

 

バカになれる楽園!

ふざけあい、うめきあい、キスして、ウソを信じるふりをして、

愉快な音楽が流れ、

音楽に揺れて全身が麻痺した夕暮れ、

バカになれる楽園!

 

束の間の無邪気は、

この矯正病棟から遠く離れてしまったわ。

もう泣き叫んでも手に入らない。

血色の声を絞っても手に入らないわ。

あの束の間の無邪気は」