悪(ワル)の華

ボードレールは、人間を『退屈』に住む『悪』だと思っていたようです。『悪』を詠えば、人間の本質に迫れました。 『悪』はまた、衝動的で扇動的で曖昧でした。 衝動的で扇動的で曖昧なものは、おもしろおかしく好き勝手に扱えました。 『悪』は、『滑稽』にも『美』にも『神』にさえなれました。 こうして人間は、『滑稽』や『美』や『神』に変えられました。 ボードレールのやったことは、それだけのことです。では、ボードレールの言葉遊びに浸りましょう。文中、極めて不道徳で不適切な単語や表現が使用されています。予めご了承ください。

86 情景詩

純真・純潔・純情を思い出そう。

まず、お空を眺め深呼吸し、

朝夕は教会の鐘で心鎮め、そして、

風に運ばれる讃美歌でも聴いてみるか。

屋根裏の窓から頬杖ついて、そこいらを見渡したら、

人様の喜怒哀楽や、

まっとうな仕事がどう言うものか分かってきた。

遠くに見える煙突はパリの帆柱のようだ。

工場の煙は大河になって空に流れ込んでいる。

靄を通して、夕暮れに星が産まれるところを見た。

家々の窓に明かりが灯り始めた。

青い月が顔を出した。いい調子だ。

春が過ぎ、夏が去って、秋が身支度を始めたと思ったら、

もう冬になっていた。見るべきものは一通り見た。準備はOKだ。

さぁて、窓という窓を閉めカーテンを引いて、

暗い部屋に引きこもって、天使の宮殿を建てる番だ!

庭を作った。うたを歌う鳥を放った。

白大理石の噴水を泣きむせぶ泉と見なした。

そこで恋人同士にキスをさせた。

どうだ、おとぎ話のお膳立てはすべて揃っただろう。

誰かが窓ガラスを激しく叩いている。

だがオレは机から顔を上げようとは思わない。

なぜなら今、アレのまっただ中だからだ。

頭の中に、アレを呼び出し、

オレの中の アレを抉り出し、

その二つをかき混ぜて、天使の宮殿でアレをさせている最中だ。