オレの大好きな夕暮れがやってくる。
夕暮れは犯罪の共謀者だ。狼の足取りで近づいてくる。
広い寝室のような空が、ゆっくり閉じていく。
人は解放されていく。
夕暮を待った者は、腕を伸ばして、
「今日もよく働いたなぁ」と声にする。それは嘘ではない。
病み苦しんだ者、
小難しい問題に立ち向かった学者、
身体がゆがむほど疲れ果てた職人。
こいつらを癒してくれるのが、夕暮れだ。
同時に、化け物たちが、
金持ちのように仰々しく目覚め、
窓や天井にぶつかりながら飛び回るのも夕暮れだ。
風に揺らめく薄明りの向こうで、
淫売たちが辻々に灯を点けていき、
あちこちの出入り口を開けていく。
こそこそしたその姿は、
夜襲をかけてくる敵兵のようだ。
ゆかるみに足をとられる。
人間の食物に群がる蛆虫のようだ。
夕暮れは、台所の湯気が吹く音が聞こえる。
劇場から絶叫が聞こえる。
オーケストラが鼾をかいている。
定食屋のテーブルが賭博場になる。
そこには淫売や美人局がたむろしている。
泥棒達がこっそり動き始める。
そして扉や金庫を音もさせずにこじ開けて、
何日分かの生活費と、愛人の洋服代を稼ぐ。
この厳かな夕暮れに想い馳せてみよ。
出来れば雑音には耳を塞げ!
夕暮れは病人の苦痛が激しくなる時だ!
夕暮れは、病人の首根っこをつかまえ、
その運命を終わらせ、一緒になって暗闇に沈んで行こうとする。
病院は断末魔であふれかえる。死に行くものは誰一人、
夕暮れのおいしいスープを掬えない。
暖炉のそばで愛する人と過ごすことも出来ない。
しかし考えてみれば、アイツらのほとんどは、長いこと暖炉の暖かさを知らない。
つまり、とっくに生きていたとは言えないのだ。