悪(ワル)の華

ボードレールは、人間を『退屈』に住む『悪』だと思っていたようです。『悪』を詠えば、人間の本質に迫れました。 『悪』はまた、衝動的で扇動的で曖昧でした。 衝動的で扇動的で曖昧なものは、おもしろおかしく好き勝手に扱えました。 『悪』は、『滑稽』にも『美』にも『神』にさえなれました。 こうして人間は、『滑稽』や『美』や『神』に変えられました。 ボードレールのやったことは、それだけのことです。では、ボードレールの言葉遊びに浸りましょう。文中、極めて不道徳で不適切な単語や表現が使用されています。予めご了承ください。

96 賭け事

相当なお年の娼婦が数人、血色の悪い顔に眉を引き、

薄い耳たぶへガチャガチャ安っちいイヤリングを下げ、

色褪せた肘掛け椅子に、

色目を流しながら腰かけていた。

 

緑の布の賭博台の周りには、

紫色の歯のない口を半開きにした、

艶のない肌の男たちが、激しい動悸を打ちながら、

空っぽのポケットに手を突っ込んで、ギャンブルに夢中になっていた。

 

汚れた天井には、半分点滅しないイルミネーションと、

埃を被ったシャンデリアが並び、

部屋の片隅に座った詩人の脂汗の浮いた顔を、

テカテカと光らせていた。

 

これは、ある夜、オレが見た夢の光景だ。

暗黒の絵画だ。詩人はオレだ。

音のない穴倉の隅っこで、

顎を片肘に乗せ、だんまりを決め込んでいた。

 

オレはこの部屋の連中が羨ましかった。

ババァ淫売のしたたかな陽気さに感動した。

互いの腹黒さと容姿をからかい合う、

その駆け引きさえ妬ましかった。

 

しかしだ。オレの背筋が突然凍った。オレが羨むこいつらは、

大口を開けた奈落の底に、自分自身の血にピチャピチャ浴しながら、

まっしぐらに滑り落ちようとしているのだ。

そうなのだ。こいつらは安逸な死よりも、地獄の苦痛に賭けよとしているのだ。