悪(ワル)の華

ボードレールは、人間を『退屈』に住む『悪』だと思っていたようです。『悪』を詠えば、人間の本質に迫れました。 『悪』はまた、衝動的で扇動的で曖昧でした。 衝動的で扇動的で曖昧なものは、おもしろおかしく好き勝手に扱えました。 『悪』は、『滑稽』にも『美』にも『神』にさえなれました。 こうして人間は、『滑稽』や『美』や『神』に変えられました。 ボードレールのやったことは、それだけのことです。では、ボードレールの言葉遊びに浸りましょう。文中、極めて不道徳で不適切な単語や表現が使用されています。予めご了承ください。

94  骸骨

       Ⅰ

荒れ果てた川岸に、

人体解剖図が散らばっていた。それは、

死体が放置されているようにも、

古代のミイラが眠っているようにも見えた。

 

この陰惨な素描画には、

真面目な老画家によって、

題材の趣旨はさておき、

とにかく『美』が吹き込まれていた。

 

『皮を剥がれた標本』や『骸骨図』が、

百姓のように地面を掘り起こしていた。

よく目ん玉を凝らしていたら、そこに、

完璧な人体が見えてきた。

 

    Ⅱ

奴隷のような百姓たちよ、

墓から引きずり出された罪人たちよ。

お前たちが皮を剥がれた筋肉や背骨をせっせと動かして、

地面を掘り返せば、

 

どんな奇態な収穫物が得られるのだ? 

教えてくれ。

そして、どこの蔵にその収穫物を納めるのだ? 

言ってくれ。

 

お前たちの労働は、あまりに残酷な宿命の、

証拠なのか。

墓の中でさえも、眠りは約束されていないと、

オレたちに言いたいのか?

 

オレたちは、虚無にさえ裏切られると言うのか。

死さえも、オレたちを騙すと言うのか。

きっとオレらは、永遠に、

どこか遠くの、

 

見知らぬ国で、

血まみれの素足で、

硬い地面を鋤でもって、

掘り起こさなければならない運命なのだろう。