悪(ワル)の華

ボードレールは、人間を『退屈』に住む『悪』だと思っていたようです。『悪』を詠えば、人間の本質に迫れました。 『悪』はまた、衝動的で扇動的で曖昧でした。 衝動的で扇動的で曖昧なものは、おもしろおかしく好き勝手に扱えました。 『悪』は、『滑稽』にも『美』にも『神』にさえなれました。 こうして人間は、『滑稽』や『美』や『神』に変えられました。 ボードレールのやったことは、それだけのことです。では、ボードレールの言葉遊びに浸りましょう。文中、極めて不道徳で不適切な単語や表現が使用されています。予めご了承ください。

100  かあちゃんが妬んだ家政婦

かあちゃん、あんたに代わってオイラを育ててくれたあの※1家政婦は、

いま、雑草の下で眠っている。かあちゃん、あんたはあの家政婦を少し妬んでいたね。

女って、怖いよ。だがな、かあちゃん、せめて花ぐらい供えてやらなければならないぜ、

死者は哀れなもんだ。みんな辛い思いをしている。

木々の枝や葉っぱを落とす10月が、

墓石に憂鬱な風を吹きかける時には、

生きているオレたちを、毛布の中でぬくぬくと眠る恩知らずと、

罵っているに違いないんだ。

真っ暗な夢に虐められながら、

ベッドを共にする者もなければ、話をする相手もなく、

蛆虫に肉を食い荒らされた骸骨に、

雪が雫となって鞭打ってくるのだ。

もう長いこと、

墓の枯れ花を誰も取り替えていない。

 

暖炉の薪が歌を口ずさんで燃えている夕べに、

慎ましやかにソファに、墓穴から這い出て来た家政婦を見たら、

12月の青く寒い夜に、

部屋の片隅にうずくまる家政婦に気づいたならば、

そして大人になったオレを母のような眼差しでまだ見つめていたならば、

オレは墓場の苦しみに苛まれるこの女に、

何と言葉をかければいいのだ。

涙が窪んだ瞼から流れるのを前にして……。

※1ボードレールの母親が再婚した当初、母代わりでボードレールを育ててくれた家政婦のマリエット。