便所掃除のばあちゃんは満州生まれ、
そのばあちゃんのおとうちゃんは満鉄の重役で、
使用人にかしずかれ、
乳母絵日傘の暮らしをしてたとさ。
その肌色は暖かい白。濡羽色の髪は艶々して、
うなじのあたりに、色気があり、
背はすらりと高く、動きはそつなく、
笑みは静かで、眼差しは落ち着いていた。
大東亜戦争が終って、着の身着の儘の、
這う這うの体で日本に引き揚げて
頼るあてなく、パンパンになって、
暗がりから、「お兄さん、遊んでいかない」と手招きし、
通りすがりの客にヒロポンを打って、
「わたしは、さる華族の娘で……」なんて言って夢を見させ、金を稼いでいたとさ。