悪(ワル)の華

ボードレールは、人間を『退屈』に住む『悪』だと思っていたようです。『悪』を詠えば、人間の本質に迫れました。 『悪』はまた、衝動的で扇動的で曖昧でした。 衝動的で扇動的で曖昧なものは、おもしろおかしく好き勝手に扱えました。 『悪』は、『滑稽』にも『美』にも『神』にさえなれました。 こうして人間は、『滑稽』や『美』や『神』に変えられました。 ボードレールのやったことは、それだけのことです。では、ボードレールの言葉遊びに浸りましょう。文中、極めて不道徳で不適切な単語や表現が使用されています。予めご了承ください。

61 満州生まれのばあちゃん

便所掃除のばあちゃんは満州生まれ、
そのばあちゃんのおとうちゃんは満鉄の重役で、
使用人にかしずかれ、
乳母絵日傘の暮らしをしてたとさ。

その肌色は暖かい白。濡羽色の髪は艶々して、
うなじのあたりに、色気があり、
背はすらりと高く、動きはそつなく、
笑みは静かで、眼差しは落ち着いていた。

大東亜戦争が終って、着の身着の儘の、
這う這うの体で日本に引き揚げて
頼るあてなく、パンパンになって、

暗がりから、「お兄さん、遊んでいかない」と手招きし、
通りすがりの客にヒロポンを打って、
「わたしは、さる華族の娘で……」なんて言って夢を見させ、金を稼いでいたとさ。