悪(ワル)の華

ボードレールは、人間を『退屈』に住む『悪』だと思っていたようです。『悪』を詠えば、人間の本質に迫れました。 『悪』はまた、衝動的で扇動的で曖昧でした。 衝動的で扇動的で曖昧なものは、おもしろおかしく好き勝手に扱えました。 『悪』は、『滑稽』にも『美』にも『神』にさえなれました。 こうして人間は、『滑稽』や『美』や『神』に変えられました。 ボードレールのやったことは、それだけのことです。では、ボードレールの言葉遊びに浸りましょう。文中、極めて不道徳で不適切な単語や表現が使用されています。予めご了承ください。

60 フランソワーズを歌う

張りたての弦で、お前(まえ)を歌う。

寂しがり屋のオレの中で、

駆け回る若い女鹿のお前。

 

花で飾って有頂の、

無邪気なお前を見ていると、

罪は全部許されるのではないかと思われる。

 

磁力を持ったお前との、

口づけで流れる唾液は、

飲めば、何もかも忘れることが出来る奇跡の水のようだ。

 

ワルに誘われ、

道に迷ったとき、

女神となってオレを導いてくれた。

 

にっちもさっちも、八方塞のオレに、

方角を示す星になってくれた。

オレは、どんなに感謝してもしきれない……。

 

美徳を満々とたたえた湖、

永遠の若さの泉。

無口なオレに、声を思い出させてくれた!

 

卑しいものを癒した。

粗野なものを諭した。

弱虫を鍛えたてくれた。

 

飢えた時の部屋になってくれた。

夜の灯でもあった。

いつもオレに不自由をさせなかった。

 

気持いい匂いで充満した、

浴槽のように、

今一度、オレに気力を与えてくれ!

 

そしてオレを、セックスで慰めてくれ。

天上の水に浸された、

貞操の鑑。

 

宝石のグラス。

おいしい食事と酒。

それは、フランソワーズ。