15 地獄のドン・ジョヴァンニ
三途の川に差し掛かったドン・ジョヴァンニは、
渡し守のカロンに船賃を払うと、
禁欲主義の※1 アンティステネスを気取った乞食が出て来て、
『ギィーゴ、ギィ―ゴ』と二本の櫂を漕ぎだした。
このドン・ジョヴァンニが乗った船を、
垂れ下がった胸を露わにした半狂乱の女達が、
生贄の羊の群のように群がり、
身をくねらせ、喚きながら追いかけていた。
下僕のスガナレルは、主人のドン・ジョヴァンニに未払いのままの賃金を要求し、
父親の※2ドン・リュイは、岸辺の死者たちに見せびらかすように、
『この極道息子め。よくもこの俺の白髪をあざ笑ったな』と、
ドン・ジョヴァンニを指さした。
やつれ果てた※3エルヴィラは、悲しみにうち震え、
『もう一度だけでいいの。あの笑顔を見せて』とオマンコを擦って懇願した。
愛された昔を思い出したくしょうがねぇようだ。
石の巨像が、鎧をまとって仁王立ちして、
舵を握って、波を掻き分けドン・ジョヴァンニに向かって来た。
ドン・ジョヴァンニは細身の剣に凭れかかり、ただただ先をじっと見つめていた。
周囲の騒動は、一切目に入っていないようだった。
※1 古代ギリシャの哲学者。
※2 ドン・ジョヴァンニの父。
※3 ドン・ジョヴァンニを追う妻。