悪(ワル)の華

ボードレールは、人間を『退屈』に住む『悪』だと思っていたようです。『悪』を詠えば、人間の本質に迫れました。 『悪』はまた、衝動的で扇動的で曖昧でした。 衝動的で扇動的で曖昧なものは、おもしろおかしく好き勝手に扱えました。 『悪』は、『滑稽』にも『美』にも『神』にさえなれました。 こうして人間は、『滑稽』や『美』や『神』に変えられました。 ボードレールのやったことは、それだけのことです。では、ボードレールの言葉遊びに浸りましょう。文中、極めて不道徳で不適切な単語や表現が使用されています。予めご了承ください。

16 傲慢の罪

『神学』が繁盛していた頃、

つまり、何事も『神様のお陰で、有難い事で……』で誤魔化しが効いていた頃。

お偉い学者様の中でも、とびきりの大先生がいた。

不信仰の者を、十字架の前にひれ伏させ、

その暗闇の不信心を、法灯の輝きで、涙させた大先生。

天使だけに許された、御大自身も見知らぬ、

天国に通じる、いとも賢き道を、登りつめた大先生。

ある日のことこの大先生、調子こいて、ついいらぬ事を口走った。

『イエスよ。このチビ助! お前、誰のお陰でそんなに偉くなったと思っているんだ。

わしがその気になったら、お前のカラクリ鎧の隙間に刃物を突き立て、その弱点を公衆に晒すなんざぁ、朝飯前だ。

そうなったらイエスよ、お前のかく赤っ恥は、今お前が浴している栄光と同じぐらいだろうなぁ。

よーく考えてみるんだな。わしの気分次第で、お前はシケたネンネも同然になるって言うことを』

   

大先生よ。それはちょっと言い過ぎではなかったか? 

まず、太陽がびっくりして、薄いヴェールで顔を隠した。

秩序と理性と知識に満ち、

天に届けとばかりの豪奢に輝いていた教会の大伽藍は、

おもちゃ箱をひっくり返したように混乱した。おっと、大先生の様子が変だ!

鍵のない地下壕に突き落とされたようだ!

顔からは表情が無くなり、黙りこくっている。

野良犬のように街をさまよい、

目は死人のように生気なく、

今が夏なのか冬なのか、その区別もできないようだ。

襤褸を引きづってゴミ同然で、

ガキどもに枝でつつかれ石を投げられ、からかわれ者に成り果てた。