わたし綺麗かしら。わたしの名前は『美』。この世のものとは思われないでしょう?
この胸に触れて、傷を負った人はたくさんいるわ。気を付けなさい。
無機質の愛ってどうお思いになって? ええ、言葉のない愛よ。穢れようのない愛よ。
わたしは、そんな愛を教えてあげるのが、自分の使命ではないかと、時々思うの。
謎を、どうお思いになって? 私は、謎なの。
雪に心があるってご存じ? では、その心は白鳥の白と同じって、ご存じかしら。煙にまいた訳ではなの。
秩序は大事よ。一番、大事。
わたしは、泣いた事も、笑った事もないの。冷たいって? ええ、わたしは無感動で冷酷なの。
わたしはいつも、記念碑のように凛とすまし、
すべてを拒絶しているわ。わたしの謎を解こうとした芸術家は、
苦しみもがいて、人をも自身をも恨むようになるの。そうしむけるのは、残酷かしら?
ええ、わたしは残酷。芸術家を虜にさせる手練手管にぬかりはないの。
例えば、ここに鏡があるわ。ここ、ここよ。このわたしの目よ。
この目に映る『美』に飽きたら、もっと上の『美』が映る仕掛けになっている目よ。わたしは、芸術家を
地獄に堕すのが大好き。