悪(ワル)の華

ボードレールは、人間を『退屈』に住む『悪』だと思っていたようです。『悪』を詠えば、人間の本質に迫れました。 『悪』はまた、衝動的で扇動的で曖昧でした。 衝動的で扇動的で曖昧なものは、おもしろおかしく好き勝手に扱えました。 『悪』は、『滑稽』にも『美』にも『神』にさえなれました。 こうして人間は、『滑稽』や『美』や『神』に変えられました。 ボードレールのやったことは、それだけのことです。では、ボードレールの言葉遊びに浸りましょう。文中、極めて不道徳で不適切な単語や表現が使用されています。予めご了承ください。

17 美

わたし綺麗かしら。わたしの名前は『美』。この世のものとは思われないでしょう?

この胸に触れて、傷を負った人はたくさんいるわ。気を付けなさい。

無機質の愛ってどうお思いになって? ええ、言葉のない愛よ。穢れようのない愛よ。

わたしは、そんな愛を教えてあげるのが、自分の使命ではないかと、時々思うの。

 

謎を、どうお思いになって? 私は、謎なの。

雪に心があるってご存じ? では、その心は白鳥の白と同じって、ご存じかしら。煙にまいた訳ではなの。

秩序は大事よ。一番、大事。

わたしは、泣いた事も、笑った事もないの。冷たいって? ええ、わたしは無感動で冷酷なの。

 

わたしはいつも、記念碑のように凛とすまし、

すべてを拒絶しているわ。わたしの謎を解こうとした芸術家は、

苦しみもがいて、人をも自身をも恨むようになるの。そうしむけるのは、残酷かしら? 

 

ええ、わたしは残酷。芸術家を虜にさせる手練手管にぬかりはないの。

例えば、ここに鏡があるわ。ここ、ここよ。このわたしの目よ。

この目に映る『美』に飽きたら、もっと上の『美』が映る仕掛けになっている目よ。わたしは、芸術家を

地獄に堕すのが大好き。