悪(ワル)の華

ボードレールは、人間を『退屈』に住む『悪』だと思っていたようです。『悪』を詠えば、人間の本質に迫れました。 『悪』はまた、衝動的で扇動的で曖昧でした。 衝動的で扇動的で曖昧なものは、おもしろおかしく好き勝手に扱えました。 『悪』は、『滑稽』にも『美』にも『神』にさえなれました。 こうして人間は、『滑稽』や『美』や『神』に変えられました。 ボードレールのやったことは、それだけのことです。では、ボードレールの言葉遊びに浸りましょう。文中、極めて不道徳で不適切な単語や表現が使用されています。予めご了承ください。

18 理想

大量生産の粗悪品。

網タイツの脚。煙草を挟んだ指。

グラビアを飾る裸の女。

ひねくれ者のオレは、そんなガラクタじゃあ満足しねぇって。

 

薄命な美人が、もだえ苦しむ病室の景色は、

俗なイラストレーターに任せたほうがいい。

血の気の失せた薔薇園に、

理想の深紅の薔薇なんか、一輪も咲いてはいねぇからよ。

 

一筋縄にゃあいかねぇオレっちが、求めるもんは、

そうだなぁ……、荒涼な土地に咲いた殺人の花。

大悪党のマクベス夫人。まぁ、そんなとこだ。

 

それともあれだな、巨人の舌で舐めるにゃあもってこいの、

悩ましいポーズで、身を捩じっている、

ミケランジェロが彫った、『夜』と名付けられた巨大な像だな。