腹も立っていねぇし、憎ったらしいわけでもねぇ。
ただ何となく、※1お前(めえ)を殴りてぇ気分なんだ。
肉屋が肉切包丁で、腿をぶっ叩くように。
石屋がゲンノウでノミを打つように。
オレの乾ききった心を潤すために、
お前の眼に、苦悩の涙を湧かせよう。
オレはむしゃくしゃしている。
だからお前の腫れあがった眼を見れば、
気分も少しは紛れるだろう。
そして涙に満足したオレの耳の中を、
お前の情けねぇえ泣き声が、
ファンファーレのように引き裂く。
オレにしがみつき、噛みつく、
お前の執拗な『嫌味』を聞いて、
オレは神妙な交響楽の中の、
狂喜する和音になっていないか?
オレの声は裏返っていないか。
オレの血は、黒い毒液となり、
髪を逆立てたお前が覗く鏡は、オレの顔になる。
オレは傷口であって、匕首だ。
オレは平手打ちであって、頬だ。
オレは手と足であって、拷問の車輪だ。
オレは処刑者であって、死刑執行人だ。
オレは自分の血を吸う吸血鬼。
オレは笑い死にの刑に処せられていながら、
笑いを忘れた男。
———そして見捨てられた男だ。
※1 この詩のお前とは自分自身のこと。