悪(ワル)の華

ボードレールは、人間を『退屈』に住む『悪』だと思っていたようです。『悪』を詠えば、人間の本質に迫れました。 『悪』はまた、衝動的で扇動的で曖昧でした。 衝動的で扇動的で曖昧なものは、おもしろおかしく好き勝手に扱えました。 『悪』は、『滑稽』にも『美』にも『神』にさえなれました。 こうして人間は、『滑稽』や『美』や『神』に変えられました。 ボードレールのやったことは、それだけのことです。では、ボードレールの言葉遊びに浸りましょう。文中、極めて不道徳で不適切な単語や表現が使用されています。予めご了承ください。

115  ※1ベアトリーチェ

オレは心臓を砥石にして匕首を研ぎ、

世間に逆らいながらあてもなく、

灰が舞い上がる緑のない土地を、

彷徨っていた。そんなある日、

頭上に重苦しい雲が風に運ばれて来た。

なんとその雲の上では悪魔たちが群がっていた。

ヤツらはこズルそうな小人に似ていた。

クソ意地の悪い目で、

オレを頭のてっぺんからつま先まで眺め、

まるで気違いを相手にするかのようなそぶりで、

目交ぜ肘突き合ってクスクス笑い、

こんなことを囁き合っていた。

 

———「あの真下にいる野郎を、とくと眺めてやろうじゃあないか。

いっちょ前にカッコつけて、

うつろな視線で、髪を風になびかせて、

ハムレット気取りだ。

ウスノロ馬鹿! 乞食野郎! 休憩中のピエロ!

あのイカれた野郎は、道端の虫や雑草に、

にわか作りの安っぽい歌を聞かせて、

ご満悦のご様子だ。

大勘違い!

おまけに、大芝居が得意の俺等に、メンチ切る積りだぜ!」

 

オレは誤解されてはと驚き、驚きのあまり飛び上がった。

当然ヤツらにそっぽを向けばそれまでだが、

悪魔の群れがどんなものだか気になった。

オレはそこに見てしまった! その卑しい者どもの群れの中に、

比類なき高貴な眼差しのベアトリーチェを!

彼女は悪魔に混じってオレをなじり笑っていた。

そして悪魔のズボンに手を突っ込んで嬌声を上げていた。

これほどの罪に、なぜ太陽は顔をそむけないのだ!

 

※1言わずと知れたダンテの思い人。