オレは心臓を砥石にして匕首を研ぎ、
世間に逆らいながらあてもなく、
灰が舞い上がる緑のない土地を、
彷徨っていた。そんなある日、
頭上に重苦しい雲が風に運ばれて来た。
なんとその雲の上では悪魔たちが群がっていた。
ヤツらはこズルそうな小人に似ていた。
クソ意地の悪い目で、
オレを頭のてっぺんからつま先まで眺め、
まるで気違いを相手にするかのようなそぶりで、
目交ぜ肘突き合ってクスクス笑い、
こんなことを囁き合っていた。
———「あの真下にいる野郎を、とくと眺めてやろうじゃあないか。
いっちょ前にカッコつけて、
うつろな視線で、髪を風になびかせて、
ハムレット気取りだ。
ウスノロ馬鹿! 乞食野郎! 休憩中のピエロ!
あのイカれた野郎は、道端の虫や雑草に、
にわか作りの安っぽい歌を聞かせて、
ご満悦のご様子だ。
大勘違い!
おまけに、大芝居が得意の俺等に、メンチ切る積りだぜ!」
オレは誤解されてはと驚き、驚きのあまり飛び上がった。
当然ヤツらにそっぽを向けばそれまでだが、
悪魔の群れがどんなものだか気になった。
オレはそこに見てしまった! その卑しい者どもの群れの中に、
比類なき高貴な眼差しのベアトリーチェを!
彼女は悪魔に混じってオレをなじり笑っていた。
そして悪魔のズボンに手を突っ込んで嬌声を上げていた。
これほどの罪に、なぜ太陽は顔をそむけないのだ!
※1言わずと知れたダンテの思い人。