悪(ワル)の華

ボードレールは、人間を『退屈』に住む『悪』だと思っていたようです。『悪』を詠えば、人間の本質に迫れました。 『悪』はまた、衝動的で扇動的で曖昧でした。 衝動的で扇動的で曖昧なものは、おもしろおかしく好き勝手に扱えました。 『悪』は、『滑稽』にも『美』にも『神』にさえなれました。 こうして人間は、『滑稽』や『美』や『神』に変えられました。 ボードレールのやったことは、それだけのことです。では、ボードレールの言葉遊びに浸りましょう。文中、極めて不道徳で不適切な単語や表現が使用されています。予めご了承ください。

114  アレゴリー

完璧なボディーラインの、きれいな女だった。

髪の毛がワイングラスに浸っていても、気にしない女だった。

セックスで突き立てる爪も、梅毒も、

その硬い花崗岩のような肌を滑るだけだった。

彼女は『死』に微笑み、『快楽』を足蹴りした。

『死』と『快楽』は、手当たり次第に引っ掻き、

気晴らしに鎌で首を刎ねたりする怪物だ。

しかし、ド迫力この女にはビビったのか、指一本触れようとしない。

彼女は女神のように歩き、王妃のように横たわる。

アレをやっているさなかにも、神に祈る芝居をして、

胸元をひろげ、乳房をさらして、

全人類を抱き寄せようと色目を使う。

彼女は、肉体の美こそ神が与えたもっとも崇高な贈り物で、

これさえあれば、すべてが許されることを知っていた。

たとえ子は産めなくとも、肉体の美があれば、

恥ずべきことではないとも考えていた。

彼女は『地獄』も『煉獄』も知らない。

真っ暗な『死』に足を踏み出す時が来ても、

好奇心いっぱいに『死』を見つめ、恐怖も後悔もなしで、

あたかも生まれたての嬰児のように、無邪気に笑うのではないかと思う。