悪(ワル)の華

ボードレールは、人間を『退屈』に住む『悪』だと思っていたようです。『悪』を詠えば、人間の本質に迫れました。 『悪』はまた、衝動的で扇動的で曖昧でした。 衝動的で扇動的で曖昧なものは、おもしろおかしく好き勝手に扱えました。 『悪』は、『滑稽』にも『美』にも『神』にさえなれました。 こうして人間は、『滑稽』や『美』や『神』に変えられました。 ボードレールのやったことは、それだけのことです。では、ボードレールの言葉遊びに浸りましょう。文中、極めて不道徳で不適切な単語や表現が使用されています。予めご了承ください。

84 運のないヤツ

運のないヤツの、夢も、思いも、

当のご本人様さえも、

お天道さまの眼の届かない、

鉛色の汚れた沼の中にある。

 

その底なし沼では、

片輪に同情したうっかり者の旅人が、

気違いがうたう歌のような、

巨大な真っ黒い渦巻を相手に、

 

身体を旋回させて、

溺れ、

もがき苦しんで、

無駄な抵抗をしているのだ。

 

魔法をかけられた男は、

蛇や蜥蜴が這いずり回る穴から、

逃げ出そうと手探りしているが、

光も手掛かりも見つけられない。

 

呪いをかけられた男は、

湿って腐った臭いのする深い穴に、

手すりもない階段を踏みながら、

灯も手にせず、降りていく。

 

それをじっと見ているのは、

皮膚がヌルヌルする怪獣たちだ。

その眼が炯々と光れば、闇はいっそう深くなり、

その眼の光で、怪獣の数が百を超えると知れる。

 

一艘の船が、

北極の水晶に閉じ込められる。

いったいどんな運命が、

この船を氷の牢屋へ投げ込んだのだ。

 

———運のないヤツは、とことん救われない。

努力や根性なんか、でっちあげだ!

運の悪いヤツの、なれの果てを見れば、それが分かるだろう。

悪魔のやる仕事は、完璧なのだ!

   Ⅱ

暗い空気を挟む向かい合った鏡。

その両方にオレが映っている!

黒々と澄んだ『真実』の井戸に、

鉛色の星が震えている。

 

皮肉のかがり火、地獄の灯台

———悪(ワル)であると言う意識。

これは、悪魔からのプレゼントだ。

運のないヤツらの唯一のお慰めにして栄光だ!