Ⅰ
運のないヤツの、夢も、思いも、
当のご本人様さえも、
お天道さまの眼の届かない、
鉛色の汚れた沼の中にある。
その底なし沼では、
片輪に同情したうっかり者の旅人が、
気違いがうたう歌のような、
巨大な真っ黒い渦巻を相手に、
身体を旋回させて、
溺れ、
もがき苦しんで、
無駄な抵抗をしているのだ。
魔法をかけられた男は、
蛇や蜥蜴が這いずり回る穴から、
逃げ出そうと手探りしているが、
光も手掛かりも見つけられない。
呪いをかけられた男は、
湿って腐った臭いのする深い穴に、
手すりもない階段を踏みながら、
灯も手にせず、降りていく。
それをじっと見ているのは、
皮膚がヌルヌルする怪獣たちだ。
その眼が炯々と光れば、闇はいっそう深くなり、
その眼の光で、怪獣の数が百を超えると知れる。
一艘の船が、
北極の水晶に閉じ込められる。
いったいどんな運命が、
この船を氷の牢屋へ投げ込んだのだ。
———運のないヤツは、とことん救われない。
努力や根性なんか、でっちあげだ!
運の悪いヤツの、なれの果てを見れば、それが分かるだろう。
悪魔のやる仕事は、完璧なのだ!
Ⅱ
暗い空気を挟む向かい合った鏡。
その両方にオレが映っている!
黒々と澄んだ『真実』の井戸に、
鉛色の星が震えている。
皮肉のかがり火、地獄の灯台、
———悪(ワル)であると言う意識。
これは、悪魔からのプレゼントだ。
運のないヤツらの唯一のお慰めにして栄光だ!