悪(ワル)の華

ボードレールは、人間を『退屈』に住む『悪』だと思っていたようです。『悪』を詠えば、人間の本質に迫れました。 『悪』はまた、衝動的で扇動的で曖昧でした。 衝動的で扇動的で曖昧なものは、おもしろおかしく好き勝手に扱えました。 『悪』は、『滑稽』にも『美』にも『神』にさえなれました。 こうして人間は、『滑稽』や『美』や『神』に変えられました。 ボードレールのやったことは、それだけのことです。では、ボードレールの言葉遊びに浸りましょう。文中、極めて不道徳で不適切な単語や表現が使用されています。予めご了承ください。

45 告白

一度だけ、ただ一度だけ、

あんたのスベスベした腕が、オレの腕に、

もつれたことがあった。(オレの薄汚ねぇ胸底でも、

この思い出だけは色あせていねぇ)

 

もう日は暮れていた。新しいメダルのような、

月が浮かんでいた。

荘厳な夜の空気は、河のように、

眠るパリの上を流れていた。

 

家並みに沿って、軒下では、

ネコたちが、ぬすっと歩きで、

耳を立て、親しい影のように、

オレに付きまとった。

 

突然、青白い閃光の中に花が咲いた。

そして、遠慮も気兼ねもなく、

輝かしい音色が、

あんた、と言う楽器から、

 

突き通すファンファーレの響きが、

あんたから、ノーテンキに、

泣き声とも間違う、奇妙な響きが、

ためらいながら、あんたから、漏れ出た。

 

あんたは、いじけた、インキャラで、コミショウの、不潔なオタク少女だ。

家族の者たちが、顔を赤らめ、

長い間、世間の目からかくそうと、

地下室にひそかに閉じ込めていた少女のようだ。

 

しかし忘れられた少女よ、あんたの耳障りな声は、訳知り顔でこう歌っていた。

「この世は、なにもかも、ハッキリしないの。

 どれだけ化粧に凝っても、

 ボロは隠せないわ。

 

 きれいな女って、

 なんてつらいお仕事かしら。つまり、それは、

 機械仕掛けの笑顔をうかべて、うっとりとしている、

 オツムの弱いダンサーの仕事なのよ。

 

 心の上に、何か築くと言うのは、愚かな行為。

 あらゆるものは壊れるもの。愛も美しさも、

 結局は、『忘却』がゴミ箱の中に投げ込むの。

 そして、『永遠』のなかに埋没するだけだわ!」

 

オレはときどき、あの魔法にかかった月を思い出す。

あの沈黙と物憂さを。

そして心の懺悔室で囁かれた、

この恐ろしい打ち明け話を。