悪(ワル)の華

ボードレールは、人間を『退屈』に住む『悪』だと思っていたようです。『悪』を詠えば、人間の本質に迫れました。 『悪』はまた、衝動的で扇動的で曖昧でした。 衝動的で扇動的で曖昧なものは、おもしろおかしく好き勝手に扱えました。 『悪』は、『滑稽』にも『美』にも『神』にさえなれました。 こうして人間は、『滑稽』や『美』や『神』に変えられました。 ボードレールのやったことは、それだけのことです。では、ボードレールの言葉遊びに浸りましょう。文中、極めて不道徳で不適切な単語や表現が使用されています。予めご了承ください。

98  うわべっつら

通り過ぎるあんたの靴音が、

天井に響き砕けた。

あんたは、足をふと止めて、

深刻な目をして、周りを見渡した。その時だ。

 

夕陽に映えるあんた瞳が、

肖像画のそれに似通った。

灯りの穂先が、

あんたの青ざめた額を照らした。

 

オレは思わず口にした。「なんて、きれいなんだ!」

仰々しい思い出が、王宮の塔のように、

あんたの頭を飾っていた。その胸の内は傷んだ桃のようで、

その身体と同じように食べごろに見えた。

 

あんたは最高の味がする果実だ!

いや、涙の絶えない重々しい葬儀だ。

砂漠の中の水の匂いだ。

愛撫してくれる枕だ。いや花で編まれた籠だ!

 

オレは知っている。底知れない悲しみを抱えながら、

まったく秘密を隠していない眼差しと言うものがあることを!

それは宝石のない宝石箱。何も入っていない形見入。

空虚で深遠なもの。そうだ大空にそっくりだ!

 

真実など信じない者には、うわべっつらの美しさで充分だ!

あんたのおバカ加減や、薄情なんか、クソッ喰らえだ!

見栄で結構! 偽りで上等! その美しさの前では、

真実なんか何の意味もないのだ!