102 パリの夢 ※1コンスタンタン・ギースに捧ぐ
Ⅰ
恐ろしい景色の夢だった。
誰も見たことがないだろう。
今もその映像がちらつく。
そしてオレを虜にしている。
眠りは何でも可能だ。
奇妙な思い付きかもしれないが、
まずは、不揃いな木々を、
目障りだから取り除こう。
そうして眺めたら、
金属と大理石と水だけの景色になった。
オレは自惚れ屋の画家のように、
この景色にうっとりした。
階段とアーケードだけのバベルの塔、
それは果てしのない迷宮。
噴水と滝を、ツヤのない金やピカピカの金の岩間を伝わせ、
湖水に落とそう。
大きな瀑布で、
水晶の幕のように、
金属の断崖絶壁を、
覆わせよう。
眠る池を、
円柱で囲もう。
そこでは、水面に自分を映す、
大きな水の精たちを遊ばせよう。
青々とした水が、
薔薇色と緑の岸辺に溢れ、
世界の果てに向かって、
流れ始めた。
流れは、
まだ人が名付けていない宝石。
魔法のうねり。
万物を映し出す巨大な鏡。
幾筋ものガンジスは、
音もたてずに悠然と、
宝石の雫を、
天空からダイヤモンドの淵へと注いでいた。
オレは夢の建築家として、
手なずけた海を、
意のままに、
宝石のトンネルに潜らせた。
この景色が、
星も太陽もないのに、
輝く理由は、
自ら光っているから。
この動く奇跡にないもの。
それは音。これは恐ろしい新趣向だ。
すべては目のために。
それ以外のもののめたには存在しない奇跡。
Ⅱ
オレは、この光彩に射られた両目を、パッと開いた。
すると、ゾッとするほどみすぼらしいモノが目に入って来た。
オレは、オレの部屋で寝ていた。我に返って感じたモノ、
それは、針に刺されるような不安。
柱時計が陰惨な声で、
正午を告げた。
しかし痺れたようなパリの空は、
暗闇に包まれたままだった。
※1ボードレールが高く評価した、風景画や新聞の報道挿絵で著名な画家。