悪(ワル)の華

ボードレールは、人間を『退屈』に住む『悪』だと思っていたようです。『悪』を詠えば、人間の本質に迫れました。 『悪』はまた、衝動的で扇動的で曖昧でした。 衝動的で扇動的で曖昧なものは、おもしろおかしく好き勝手に扱えました。 『悪』は、『滑稽』にも『美』にも『神』にさえなれました。 こうして人間は、『滑稽』や『美』や『神』に変えられました。 ボードレールのやったことは、それだけのことです。では、ボードレールの言葉遊びに浸りましょう。文中、極めて不道徳で不適切な単語や表現が使用されています。予めご了承ください。

102  パリの夢        ※1コンスタンタン・ギースに捧ぐ

       Ⅰ

恐ろしい景色の夢だった。

誰も見たことがないだろう。

今もその映像がちらつく。

そしてオレを虜にしている。

 

眠りは何でも可能だ。

奇妙な思い付きかもしれないが、

まずは、不揃いな木々を、

目障りだから取り除こう。

 

そうして眺めたら、

金属と大理石と水だけの景色になった。

オレは自惚れ屋の画家のように、

この景色にうっとりした。

 

階段とアーケードだけのバベルの塔

それは果てしのない迷宮。

噴水と滝を、ツヤのない金やピカピカの金の岩間を伝わせ、

湖水に落とそう。

 

大きな瀑布で、

水晶の幕のように、

金属の断崖絶壁を、

覆わせよう。

 

眠る池を、

円柱で囲もう。

そこでは、水面に自分を映す、

大きな水の精たちを遊ばせよう。

 

青々とした水が、

薔薇色と緑の岸辺に溢れ、

世界の果てに向かって、

流れ始めた。

 

流れは、

まだ人が名付けていない宝石。

魔法のうねり。

万物を映し出す巨大な鏡。

 

幾筋ものガンジスは、

音もたてずに悠然と、

宝石の雫を、

天空からダイヤモンドの淵へと注いでいた。

 

オレは夢の建築家として、

手なずけた海を、

意のままに、

宝石のトンネルに潜らせた。

 

この景色が、

星も太陽もないのに、

輝く理由は、

自ら光っているから。

 

この動く奇跡にないもの。

それは音。これは恐ろしい新趣向だ。

すべては目のために。

それ以外のもののめたには存在しない奇跡。

      Ⅱ

オレは、この光彩に射られた両目を、パッと開いた。

すると、ゾッとするほどみすぼらしいモノが目に入って来た。

オレは、オレの部屋で寝ていた。我に返って感じたモノ、

それは、針に刺されるような不安。

 

柱時計が陰惨な声で、

正午を告げた。

しかし痺れたようなパリの空は、

暗闇に包まれたままだった。

 

※1ボードレールが高く評価した、風景画や新聞の報道挿絵で著名な画家。