悪(ワル)の華

ボードレールは、人間を『退屈』に住む『悪』だと思っていたようです。『悪』を詠えば、人間の本質に迫れました。 『悪』はまた、衝動的で扇動的で曖昧でした。 衝動的で扇動的で曖昧なものは、おもしろおかしく好き勝手に扱えました。 『悪』は、『滑稽』にも『美』にも『神』にさえなれました。 こうして人間は、『滑稽』や『美』や『神』に変えられました。 ボードレールのやったことは、それだけのことです。では、ボードレールの言葉遊びに浸りましょう。文中、極めて不道徳で不適切な単語や表現が使用されています。予めご了承ください。

103  パリの朝

兵舎の庭に起床ラッパが鳴り響く。

朝の風が外灯を吹き消す。

 

褐色の肌をした青年たちの耳が、

悪夢と現実の間で悶える。

ピクピクと痙攣するように、

部屋の灯りが朝日の中で赤いシミのように見える。

気分はまだ、目覚めていな身体に押し潰されたままだ。

それは、あたかも灯りとお日様の争いのようだ。

涙に濡れた顔を風が拭う。

刺すような空気が、現実逃避を誘う。

男は書くことに疲れ、女は愛することに疲れる。

 

あちこちの家から煙が立ち始める。

淫売たちが、厚化粧の口から涎を流し、

眠りを貪っている。

乞食女は、萎びた乳を垂らして、

燃えさしの薪と自分の指に臭い息を吐く。

孕み女は、節約と寒さの板ばさみで、

お股が裂かれるように痛む。

血泡の断末魔のような鶏の鳴き声が、

霧の大気を切り裂く。

霧の海に建物が沈む。

病人が慈善病院の奥で、

瀕死の悲鳴を上げた。

夜遊びに疲れた男たちが家路につく。

 

朝日が薔薇色と緑の衣装をまとって、

人気のないセーヌの上に現れた。

年老いた労働者のようなパリは、薄暗い中、目をこすりながら、

面倒くさそうに仕事道具を手にした。