悪(ワル)の華

ボードレールは、人間を『退屈』に住む『悪』だと思っていたようです。『悪』を詠えば、人間の本質に迫れました。 『悪』はまた、衝動的で扇動的で曖昧でした。 衝動的で扇動的で曖昧なものは、おもしろおかしく好き勝手に扱えました。 『悪』は、『滑稽』にも『美』にも『神』にさえなれました。 こうして人間は、『滑稽』や『美』や『神』に変えられました。 ボードレールのやったことは、それだけのことです。では、ボードレールの言葉遊びに浸りましょう。文中、極めて不道徳で不適切な単語や表現が使用されています。予めご了承ください。

107  孤独な男(詩人)の酒

いかれた女の、ぶっとんだ視線が、

隙間から漏れる白い光のように近づいて来る。

それは月が火照った顔を冷やそうと、

湖面に揺れているのに似ている。

 

ギャンブラーの手に握られた最後の銅貨。

老いさらばえた淫売の口づけ。

人の呻き声に似た、

甘ったるい音楽。

 

しかしどんなものも、

酒瓶の膨らみの蠱惑には勝てない。

酒瓶は渇き切った者たちに、若さと、希望と、生命を注ぐ。

 

———そして詩人に、傲慢を注ぎ込み、

神に眼を剥き、

神をライバルだと勘違いさせる。