1
オイラの頭ン中を、
我が物顔で闊歩するのは、
いじらしくて、可愛くて、甘えん坊の、
『ニャー』と、かすかな声で鳴く猫だ。
その息のような鳴き声は、おしとやか。
『シャー』と威嚇してきても、意外と愛嬌あるし、
喉を『ゴロゴロ』鳴らすと、なおさらカワイイ。
とにかく声が、たまんない。
その声はオイラの脳天に、
染み込んでくる。
計算高く韻をふんだ、長い詩のようだ。
まるで媚薬だ。
猫の声には催眠作用でもあるのだろうか、
聞くと、どんな辛いことも忘れられる。
含みのある、長い長い慰みごとを、
言葉もないのに、猫の声は語ってくれる。
世界一気難しいオイラの心の琴線を、
天下御免と、堂々と、
震わせ共鳴させるのは、
この不思議な弓。つまり、
猫の声だけだ。
天使よ、神秘よ、
したたかな悪党よ。
なぁ猫! お前が甘えた声で『ニャー』と鳴くのは、確か人間にだけだったよなぁ。
2
飼い猫の、金と褐色の毛が、
ある夜、変に臭っていたから、そっとひと撫ぜ、
背中をひと撫ぜして、撫ぜた掌を嗅いでみた。
すると、発情のしるしが、オレに付いてしまった。
ここはこいつの縄張りだ。
すべてを裁き、仕切る、
こいつは、フェロモンをまき散らし、
ここの妖精、いや神になるのだ。
オイラの目は、この飼い猫へと、
磁石のように吸い寄せられる。
なされるままにしておくと、オイラの目はひっくり返り、
猫ではなくオイラ自身の内側を眺める羽目になる。
びっくりしたオイラが目にしたもの、
それはこの飼い猫の青白い目だった。
うしろめたさの灯。隠し事が上手いオパール。
その目は、オイラと合わせるのを避ける。