悪(ワル)の華

ボードレールは、人間を『退屈』に住む『悪』だと思っていたようです。『悪』を詠えば、人間の本質に迫れました。 『悪』はまた、衝動的で扇動的で曖昧でした。 衝動的で扇動的で曖昧なものは、おもしろおかしく好き勝手に扱えました。 『悪』は、『滑稽』にも『美』にも『神』にさえなれました。 こうして人間は、『滑稽』や『美』や『神』に変えられました。 ボードレールのやったことは、それだけのことです。では、ボードレールの言葉遊びに浸りましょう。文中、極めて不道徳で不適切な単語や表現が使用されています。予めご了承ください。

51 猫

          1

オイラの頭ン中を、

我が物顔で闊歩するのは、

いじらしくて、可愛くて、甘えん坊の、

『ニャー』と、かすかな声で鳴く猫だ。

 

その息のような鳴き声は、おしとやか。

『シャー』と威嚇してきても、意外と愛嬌あるし、

喉を『ゴロゴロ』鳴らすと、なおさらカワイイ。

とにかく声が、たまんない。

 

その声はオイラの脳天に、

染み込んでくる。

計算高く韻をふんだ、長い詩のようだ。

まるで媚薬だ。

 

猫の声には催眠作用でもあるのだろうか、

聞くと、どんな辛いことも忘れられる。

含みのある、長い長い慰みごとを、

言葉もないのに、猫の声は語ってくれる。

 

世界一気難しいオイラの心の琴線を、

天下御免と、堂々と、

震わせ共鳴させるのは、

この不思議な弓。つまり、

 

猫の声だけだ。

天使よ、神秘よ、

したたかな悪党よ。

なぁ猫! お前が甘えた声で『ニャー』と鳴くのは、確か人間にだけだったよなぁ。

 

          2

飼い猫の、金と褐色の毛が、

ある夜、変に臭っていたから、そっとひと撫ぜ、

背中をひと撫ぜして、撫ぜた掌を嗅いでみた。

すると、発情のしるしが、オレに付いてしまった。

 

ここはこいつの縄張りだ。

すべてを裁き、仕切る、

こいつは、フェロモンをまき散らし、

ここの妖精、いや神になるのだ。

 

オイラの目は、この飼い猫へと、

磁石のように吸い寄せられる。

なされるままにしておくと、オイラの目はひっくり返り、

猫ではなくオイラ自身の内側を眺める羽目になる。

 

びっくりしたオイラが目にしたもの、

それはこの飼い猫の青白い目だった。

うしろめたさの灯。隠し事が上手いオパール

その目は、オイラと合わせるのを避ける。