あの夏のさわやかな朝、オレたち二人が、
目にしたものを、思い出してみようぜ。
小道の曲がり角に、砂利をベッドにして、
腐った死体が横たわっていたよな。
ズベコウのように、お股ブッ広げて、
ムンムンする毒気を蒸発させながら、
お行儀悪く、ふてくさって、
臭気で破裂した腹をさらしていたいよな。
お日様は、死体を焼きつくそうと、
腐肉の上に照り付けて、
肉の構成元素を溶かし切って、百倍返しと言わんばかりに、
青黒い光を反射していた。
空は、満開の花のような、
この素晴らしい死体を、ニコニコしながら見下ろしていた。
ところがお前は、オレのイロであるお前は、臭さに耐え切れず、
草の上に倒れ、危うく気を失うところだったよな。
銀蝿が、裂けた腹の上でブンブン唸り、
蛆虫の塊が、這い出てはこぼれ落ち、
朽ちて腐った肉を伝って、
ドロッとした、黒い液汁となって伝っていたよな。
蛆虫の塊は、うねっては崩れ、
ぷちゅぷちゅと、音を立てて盛り上がっていたよな。
死体はまるで、命を吹き返したように膨らんで、
繁殖しながら、生きながらえているように見えたよな。
その死体は、不思議な音楽を奏でていたな。
流れる水とか風のような音、あるいは、
農夫がリズミカルに、
穀物を箕(み)で振り分けているような音だったな。
死体は崩れて、元の形は夢幻になってしまっていた。
もう、陰も形もない。
画家が、何とかカンヴァスに面影を映そうとしても、
おぼろげな記憶を頼って、筆を動かすより方法はないだろうな。
岩の陰に、一匹の雌犬が苛立った目をして、
こっちの様子を伺いながら隠れていたのを覚えているか。
あいつはきっと、オレらの隙を狙って、
食べ残した腐肉を奪い返そうとしていたのだよな。
なぁ、オレのイロ。オレの天使。オレの情熱。
オレはなぁ、お前の目は星の輝きなんだ。いやお前はオレの太陽そのものだ。
———でもね、お前もこの汚物そっくりに、やがてなるんだぜ。
この臭気を放つ物体にな。
うん、それは間違いない。お前もこうなる。かわいいお前も。
悲しい葬儀が終わったあと、
お前も草の下で、咲き乱れる花の下で、
骨にこびり付く腐肉になっていく。
そんな時、お前は、自分の身体を食い荒らす蛆虫どもに、
こう言ってやればいいんだ。
わたしのオトコは詩人だったのよ。あの人は、
今、崩れ果てようとしている身体と精神を、記しとどめてくれたのよ、ってな。