悪(ワル)の華

ボードレールは、人間を『退屈』に住む『悪』だと思っていたようです。『悪』を詠えば、人間の本質に迫れました。 『悪』はまた、衝動的で扇動的で曖昧でした。 衝動的で扇動的で曖昧なものは、おもしろおかしく好き勝手に扱えました。 『悪』は、『滑稽』にも『美』にも『神』にさえなれました。 こうして人間は、『滑稽』や『美』や『神』に変えられました。 ボードレールのやったことは、それだけのことです。では、ボードレールの言葉遊びに浸りましょう。文中、極めて不道徳で不適切な単語や表現が使用されています。予めご了承ください。

57 聖母へ        スペイン風の奉納物

『聖女』よ、わたしの至宝、あなた様ため、

わたしの苦悩の奥底に、地下祭壇を築かせていただきます。

その暗黒の片隅に、

俗な欲望や意地悪な視線から、あなた様を隔絶させるため、

紺碧に金銀七宝を散りばめた壁を立てさせて下さい!

あなた様はそこで、ただ奇跡の『彫像』として気取っていればいいのです。

わたしは、慇懃な『詩句』とダイヤモンドの『脚韻』を、

プラチナに整然とはめ込んだ、強大なティアラを作り、

あなた様に被せます。

そしてわたしの『嫉妬』と言う名の布地で、生きた『聖母像』のあなた様に、

外套を仕立てさせて下さい。それは、

野蛮人向きのざらついた重い布地で作ります。そして『猜疑心』と言う裏地を合わせます。

真珠などは飾りません。わたしの涙を縫い付けるのです。

きっと外套はあなた様を、ボディガードのように包み込むはずです。

あなた様のドレスはわたしの『欲望』で作らせて下さい。そのドレスは揺れ、

ドレープを打ちます。『欲望』は昂まりと静まりを繰り返し、

波頭で戸惑い、波間で呼吸を整え、

バラ色に染まったあなた様の白い肌を、恐れ多いことですが、口づけで覆い隠すのです。

わたしの『畏敬』からは、美しい靴を作ります。

繻子は、あなた様の神聖な脚に虐められながら、

柔らかな抱擁でその脚を閉じ込める忠実な鋳型になって、

あなた様の存在を記念し続けることでしょう。

わたしの力が足らず、

あなた様の『台座』に、銀の『月』を上手く彫ることが出来なかったら、

代わりにわたしの内臓に喰らいついた『蛇』を置かせて下さい。

多くの供物(くもつ)に飽きた栄えある女王のあなた様は、

償いの嘔吐物で膨れ上がったこのわたくしめを、

踏みつぶし、むち打ち、嘲弄して下さい。

わたしの『思考』が、花で埋まった祭壇の『蝋燭』のように並べられ、

青く塗られた天井に星々の輝きを瞬かせ、

燃える瞳で『聖母像』のあなた様を見上げます。

あなた様はご褒美の『黄金』と『聖水』を、わたしにふりかけるのです。

そしてわたしのすべてが『安息香』『沈香』『乳香』『没薬』となり、

白雪を頂く至上のあなた様に、

慕いながら、崇めながら、讃えながら、

蒸気となって、歪んだわたしの『情念』が上(のぼ)っていくのです。

 

最後に、あなた様を本物の『聖母』に仕上げるために、

愛情にどす黒い欲情が混じりあったわたしは、

怨念に操られる死刑執行人として、

7つの『大罪』で、7本の『短刀』を作らせていただきます。

そして切れ味のいいその刃を、冷酷な曲芸師となって、

あなた様の愛の急所を的にして、1本も残さず投げ込むのです!

ピクピク動く心臓に、

血まみれの心臓に、すすり哭く心臓に! あなた様を完成させるために。