悪(ワル)の華

ボードレールは、人間を『退屈』に住む『悪』だと思っていたようです。『悪』を詠えば、人間の本質に迫れました。 『悪』はまた、衝動的で扇動的で曖昧でした。 衝動的で扇動的で曖昧なものは、おもしろおかしく好き勝手に扱えました。 『悪』は、『滑稽』にも『美』にも『神』にさえなれました。 こうして人間は、『滑稽』や『美』や『神』に変えられました。 ボードレールのやったことは、それだけのことです。では、ボードレールの言葉遊びに浸りましょう。文中、極めて不道徳で不適切な単語や表現が使用されています。予めご了承ください。

78 憂鬱

低く垂れた重い空が蓋となり、無気力になったヤツらに、

のしかかって来るとき、

そしてその蓋の端が、地平線に密着して、

この世を真っ暗闇にしたとき、

 

地上は湿気の多い地下牢になってしまい、

そこを『希望』が大蝙蝠となってバタつき、

その翼が壁を擦ったり、

頭が、塗装の剥がれた天井にぶつかったりするとき、

 

雨があたかも、

デカい牢屋の鉄格子と見間違えるとき、

毛で覆われた黒い蜘蛛が這い出て来て、

オレたちの頭蓋骨の内側に巣を張ったとき、そんな時に、

 

———霊柩車が、音もたてずに、

オレの魂の中を、のろのろと横切った。それは、

鐘が突然、たけり狂って跳ね上がり、

不気味な唸り声を上げ、

 

行き場のない亡霊が目覚め、

不平不満の声をあげるようだった。

『希望』は音を上げ、『苦悩』がほくそ笑み、

真っ黒な旗を、オレの脳味噌に突き立てた。