悪(ワル)の華

ボードレールは、人間を『退屈』に住む『悪』だと思っていたようです。『悪』を詠えば、人間の本質に迫れました。 『悪』はまた、衝動的で扇動的で曖昧でした。 衝動的で扇動的で曖昧なものは、おもしろおかしく好き勝手に扱えました。 『悪』は、『滑稽』にも『美』にも『神』にさえなれました。 こうして人間は、『滑稽』や『美』や『神』に変えられました。 ボードレールのやったことは、それだけのことです。では、ボードレールの言葉遊びに浸りましょう。文中、極めて不道徳で不適切な単語や表現が使用されています。予めご了承ください。

35 決闘

ふたりの中年男が、抜き身の匕首を腰にあてがい、睨み合っていた。

と、ふたりは同時に飛び上がった。宙に鋼の火花と血が散った。

刃と刃がかち合う音がした。この決闘は、女の取り合い。

まるでガキの乱痴気騒ぎだ。

 

遠く過ぎ去ったふたりの思春期のように、刃がこぼれた。

劣情に目がくらんだ男ども! 匕首が使い物にならないのなら、

歯と爪があるじゃあないか。

いい歳をした、色気狂いどもめ。

 

やがてふたりは、執念深く互いの首根っこを締め付けながら、

獣がうろつく谷底に落ちて行った。

きっとふたりの乾ききった肌には、茨の棘に血の花が咲くだろう。

 

———その谷底は地獄だった。

札付き女よ、さあ景気よく飛び込め、

男どもの決闘が、永遠に続くように!