今夜の月は、いつもにもまして放心状態だ。
それは眠りにつく前に、
重ねたクッションに凭れかかって、
乳首をもてあそぶ女のようだ。
女は崩れた繻子のクッションを背に、
呼吸を整えながら深い恍惚に溺れ、
瞳をめぐらして、
ぽっと花を開くように昇っていく、白い幻影を追いかける。
月は時々いたずらで、
ウソ泣きの涙の雫を地上に落とす。
眠れない神経質な男はそれを見逃さず、
虹色のオパールの雫を掌に受けて、
誰にも知られない心の内側にそっと隠す。
女を満足させた思い出を指折り数えながら。