悪(ワル)の華

ボードレールは、人間を『退屈』に住む『悪』だと思っていたようです。『悪』を詠えば、人間の本質に迫れました。 『悪』はまた、衝動的で扇動的で曖昧でした。 衝動的で扇動的で曖昧なものは、おもしろおかしく好き勝手に扱えました。 『悪』は、『滑稽』にも『美』にも『神』にさえなれました。 こうして人間は、『滑稽』や『美』や『神』に変えられました。 ボードレールのやったことは、それだけのことです。では、ボードレールの言葉遊びに浸りましょう。文中、極めて不道徳で不適切な単語や表現が使用されています。予めご了承ください。

65 月

今夜の月は、いつもにもまして放心状態だ。

それは眠りにつく前に、

重ねたクッションに凭れかかって、

乳首をもてあそぶ女のようだ。

 

女は崩れた繻子のクッションを背に、

呼吸を整えながら深い恍惚に溺れ、

瞳をめぐらして、

ぽっと花を開くように昇っていく、白い幻影を追いかける。

 

月は時々いたずらで、

ウソ泣きの涙の雫を地上に落とす。

眠れない神経質な男はそれを見逃さず、

 

虹色のオパールの雫を掌に受けて、

誰にも知られない心の内側にそっと隠す。

女を満足させた思い出を指折り数えながら。