109 破壊(快楽とは)
悪魔が、オレの周りでうろついている。触れられない空気のように、フワフワと。
だからうっかり、ヤツを吸い込んでしまう。
ヤツはオレの肺の中で、業火の焚き木を始める。
するとオレは、罪を犯したい衝動に駆られる。
ヤツはオレの弱点を知っている。
時々、とびきりの美女になって現れる。
そして、「口づけをしましょう」と囁いて、オレの唇に変な薬を塗り、
本物の快楽の味を覚えさせる。その瞬間、
オレはクタクタに疲れ果て、息を切らす。
そして、神から遠ざけられ、
ひと気のない荒野の真っただ中に連れて行かれる。そこで悪魔は、
途方にくれるオレの目の中に、
ボロボロの服や、開いた傷口や、
破壊に使った血まみれの凶器を投げ隠し、何もなかったかのように微笑む。